妊娠・出産 2026.01

いのちの教室の講座では、受精から出産までの約280日間の物語を、子どもたちと一緒にたどっていきます。ここでは、妊娠中期から出産、そして「お母さんからのラブレター」までの流れをご紹介します。

妊娠中期——お腹の中で聴いていた声

妊娠中期に入ると、胎児はだいぶ人間らしさが増していきます。エコーや写真を見せると、子どもたちにとってはまだ少し怖いようです。

16週以降になると、胎児は外の音に反応するようになります。お母さんのお腹にいたとき、お母さんやお父さん、おじいちゃんおばあちゃん、お友だちなど、いろいろな人の声を聴いていたんだよ——そう伝えると「えぇ〜?覚えてな〜い」という反応が返ってきます。

けれど、お腹の中にいたときの話をしていると、子どもたちはなんだかとても嬉しそうな表情を浮かべます。

胎動の話では「みんなお母さんのお腹をパンチしたり、キックしたりしていたんだよ!」と伝えると、「ぼくはこんな風にパンチしたんだ!」とニコニコしながらジェスチャーで教えてくれる子もいました。

お臍はお母さんとつながっていた証

胎児は「胎盤」「臍帯(さいたい)」でお母さんとつながり、栄養をもらって大きくなります。臍帯の胎児側——それがみんなのお臍です。お臍はお母さんとつながっていた証なのです。

この話をすると、みんな自分のお臍をじっくり観察し始めます。ある子は家に帰ってから突然お臍を出して、「つながっていたの……」とお母さんに話し始めたそうです。きっとその子の中で、お母さんと一体だったイメージがしっかり持てていたのだろうと、とても嬉しく感じました。

5歳児の鋭い疑問

お腹の中にいる赤ちゃんは「子宮」「卵膜」「羊水」に守られています。この話をすると、子どもならではの素直な疑問が飛び出します。

「お腹の中におもちゃとかあるのかなぁ?何して遊ぶんだろ?1人でさみしくないかなぁ?」

「お水の中にいて苦しくないの?」

2つ目の質問にはハッとさせられました。5歳児でもこんなに鋭い視点で疑問を持てるのだと驚かされます。

少しずつ大きくなるお母さんのお腹。子宮は膀胱と直腸に挟まれているため、お腹が大きくなると頻尿や便秘にもなる——そんな身体の変化も、子どもたちに伝えています。

細胞の死が指をつくる——アポトーシスという奇跡

妊娠の話の中で、子どもたちに見せるリアルな胎児の写真があります。その中で私が最も好きなのは、受精後6週頃の赤ちゃんの手の写真です。まだ水かきが残っている小さな手——なんとも愛おしい姿です。

私たちの手に水かきは残っていません。手の指は「アポトーシス」という、細胞の計画的な死によって形成されています。

受精後、細胞分裂を繰り返してたくさんの細胞が身体をつくっていく過程で、決められた時期に決められた仕組みで細胞が死を遂げる。それがアポトーシスです。不要な水かきが消えていくことで、5本の指が現れる。

「生を受けるために必要な死」が存在する。たくさんの細胞たちが、指を形づくるために死を遂げていく。この事実を知ったとき、私は深い感動を覚えました。人が生まれるということは、どこまでも奇跡の連続なのです。

妊娠後期——お母さんの身体はこんなに大変

後期に入ると、お腹はどんどん大きくなります。下が見えない、立って靴下が履けない、ずっと立っているとお腹が張る、トイレが近い、便秘になる、子宮に圧迫されてご飯があまり入らない、足がつって夜中に目が覚める……。

お母さんにはさまざまな大変さがある。そのことも、子どもたちにしっかり伝えます。

講座では「約280日」という期間を幼児にも伝わるよう工夫しています。通常、医療従事者は妊娠期間を「○週○日」と表しますが、幼児にとって時間の概念はとても難しいもの。そこでカレンダーを使い、1ヶ月を1つの箱として見せることにしました。子どもたちの日常感覚に合わせた工夫です。

経膣分娩と帝王切開——どちらも立派なお産

37週0日からは正期産。いつ生まれてきてもよい時期です。ここからは出産の方法についてもお話します。

経膣分娩は、子宮の出口から膣を通って出てくる方法。帝王切開は、さまざまな事情で膣を通って出てこられない場合に、お腹と子宮を切って生まれてくる方法。どちらも立派なお産です。

子どもたちの中には「私、帝王切開〜」と言う子もいて驚かされます。それはきっと、お家でお母さんと出産の話をしているのでしょう。素晴らしいことです。

出産のお話を聞いた翌回には、出生直後の新生児ケアの映像も見ます。「赤ちゃん泣いてる!」「かわいい!」「ママのところに行くのかな」と、子どもたちは大興奮です。

「お母さんからのラブレター」——涙と笑顔のサプライズ

妊娠後期のお話と合わせて行うのが「お母さんからのラブレター」です。

お母さんに事前に書いてもらったアンケートを、講師の私が子どもたち一人ひとりに直接読み伝えます。つわりや切迫流産による入院、妊娠糖尿病、緊急帝王切開……。さまざまな体験と気持ちが記された、世界にひとつだけの大切な手紙です。

お母さんからの言葉を聴いた子どもたちの反応は実にさまざまです。恥ずかしそうにそっぽを向きつつ、顔はニヤニヤを抑えるのに必死な子。ケラケラ笑いながらも明らかに照れている子。黙って一点を見つめる子。目をウルウルさせる子。途中で先生の手をギュッと握って「泣きそう……」と言った子もいました。

共通しているのは、とにかく嬉しそうだということ。家族みんなが自分の誕生を待ち望んでいたこと。愛されて、望まれて生まれてきたこと。生まれてきただけで、1等賞の120点満点であること。その実感が、子どもたちの中に確かに芽生えていく瞬間です。

なぜ「からだの話」から始めるのか

受精卵のわずか0.1mmから始まり、細胞分裂を繰り返し、アポトーシスという計画的な細胞の死を経ながら、骨、筋肉、心臓、肺、脳——すべてが欠損なく形成されて生まれてくる。新生児の身体は約60兆もの細胞からできているといわれています。それだけで、とてつもない奇跡です。

いのちの教室の性教育が「からだの話」から始まるのは、自分の身体を丸ごと愛してほしいという想いがあるからです。

ただ「大事だから守るんだよ」と言うだけでは、子どもも大人も心からは納得できません。からだの仕組みを知り、自分がここに存在するまでの奇跡を知る。その根拠があって初めて、「自分を守りたい」「自分を大切にしたい」という気持ちが自分のものになるのです。

水着ゾーン(プライベートゾーン)は、いのちを産み出す場所、いのちのバトンを渡す場所。だから守らなければならない。子どもたちには、その理由を280日間の物語を通じて、しっかりと届けています。

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